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サンショウはおなかを温め腸管を刺激する

大建中湯がよく効くのは、「虚証(漢方独特の診断法の一つ)」といって、普段から体力が弱い人です。下腹がガスで張っているわりにはフニャフニャと柔らかい。こんな人には性別にかかわらず、大建中湯が確実に効果を発揮します。

漢方医は、この症状を「ヘビの頭足あるがごとし」と言っています。外から見たり、手で触れたりすると、柔らかい皮膚の下で腸がヘビのようにクネクネ動いているように見えるからです。総じて中年以降の女性に多い特徴ですが、時には若い女性や男性にも見られることもあります。

逆に、「実証(虚証と同じように漢方独特の診断法の一つ)」といって、普段から元気で体力もあり、下腹の皮膚も硬いような人が、腸の調子が悪いからといって大建中湯を用いても、あまり芳しい効果は望めません。

薬が必要なほどではないが、ガス腹や膨満感、オナラが気になる、あるいは慢性的に腸が弱いという人には、普段の食生活の中でサンショウを意識して取ることをお勧めします。サンショウの温中作用(おなかを温める)や腸管刺激作用によって、腸管の働きを常に活発に保つ効果が期待できます。

今まで、サンシヨウを使うのは年に何度かウナギを食べるときぐらいだったという人は、他の料理にもスパイスとして日常的に活用してはいかがでしょうか。ただし、取り過ぎは逆効果になることもあるので、注意が必要です。

最近は、本家である日本を尻目に、ヨーロッパではサンショウが調味料として大人気とか。一流のレストランでも、さまざまな形で料理に使われているそうです。

確かに、あのサンシヨウ特有の風味を、ウナギのかば焼きだけのものにしておくのはもったいない話です。家庭でもサンショウをもっと工夫して活用し、料理にはハーモニーを、体には健康を招くようにしたらいかがでしょうか。

サンショウというと、かば焼きの薬味くらいしか思い浮かばない

「小粒でもビリリと辛い」という言葉どおり、サンショウは見かけに似合わず、小粒ですが私たちの健康に役立つ貴重な力を秘めており、漢方では古くから活用されているのです。

サンショウはミカン科の植物の果実で、漢方では山椒とか濁椒、川椒とも呼ばれ、今から2000年ほど前、中国・後漠の時代に編纂された医学書『金匿要略』にも紹介されています。

薬性は熱、薬味は辛、帰経(作用する部位)は脾・胃・肺・腎。主に、次の三つの症状に用いられます。

・冷えを解消して、体を温める。

・腸内にいる回虫などの虫を駆除する。

・胃腸の動きをよくして、ガス腹や便秘を改善する。

このサンショウの薬効や特性をメインとして処方された漢方薬の代表が、最近日本だけでなく、アメリカでも注目を集めている大建中湯です。

注目されている理由は、冷え腹、ガス腹で腹痛があるといった症状だけでなく、過敏性腸症候群や潰瘍性大腸炎、クローン病といった原因不明のおなかのトラブルにまで、大建中湯がとてもよく効くからです。

ちなみに、大建中湯の「中」はおなか(胃腸)のこと。その名のとおり、「大いにおなかを建て直す薬」なのです。大建中湯はサンショウのほかに人参、乾姜、膠飴の4種の生薬(漢方薬の原材料となる天然物から処方されています。

人参は新陳代謝を促す作用があり、胃腸の消化吸収を活発にします。乾姜は、干したヒネショウガのこと。発汗作用に優れ、冷えや嘔吐などの胃腸機能低下などに効果があります。膠飴は、いわゆる水あめのこと。麦芽糖から作られ、息切れなどの症状の改善や滋養強壮に働きます。

大建中湯は、サンショウの腸管刺激作用を中心に、これらの生薬が協調して働くことで、腸内のガスの吸収を促進したり、停滞している腸のぜんどう運動(腸が内容物を肛門のほうへ送る動き)を活発にします。

その結果、おなかがゴロゴロしたり、ガス腹や便秘、オナラが止まらないといった腸の異常症状を改善していくのです。特に、腸の手術後に現れがちな腸閉塞などの異常症状の治療には顕著な効果があることが、昌平クリニック院長の鍋谷欣市先生たちの研究でも明らかになっています。

サンショウは新しい知識を学習するときに役立つ可能性がある

帝京平成大学教授の矢野眞吾先生たちは、はたして本当に大建中湯で記憶が改善するか、マウス(実験用のネズミ)を使って実験を行いました。そしてサンショウには記憶や学習能力を高める効果があることがわかったのです。

さらに、その働きを持つ物質も特定できました。ヒドロキシーサンショールという成分です。投与量は、体重1kg当たり数mgというわずかな量で有意差が認められました。これは医薬品レベルの微量な量です。

しかし、この物質が確かに脳で働くためには、血液脳関門という脳の関所のようなところを通り抜け、一脳のコリン作動性神経(アセチルコリン含有神経)にまで到達しなければなりません。私たちはそれも確認しました。マウスの脳を調べると、確かにサンショウ関連成分が、脳組織に到達していたのです。

サンショウは、子どもが九九を覚えるというように、新しい知識を学習するときに役立つ可能性があります。実験で見たように学習効果が早いので、特に試験の前の一夜漬け勉強などには威力を発揮するかもしれませ
ん。また、高齢者の健忘症も、海馬のアセチルコリン濃度が高くなれば改善する可能性があります。

サンショウは、漢方では芳香性健胃薬として知られていますが、脳への作用はほとんど報告がありません。しかしこの実験で、また一つ、サンショウの新しい可能性が広がりました。

ただ、サンショウには独特の辛味やしびれ感があります。子どもやお年寄りには食べにくい食材ですから、どのようにして食べやすくするか、それが、これからの課題かもしれません。